『ブーメラン効果』とは『人を説得しようとしたときに、説得の内容に反発される』心理現象です。ブーメラン現象とも言います。
あなたは小学生の頃「そろそろ宿題しようかな」と思ったときに、「宿題しなさい!」「勉強しろ!」と言われて、やる気がなくなったことはありませんか?
これが『ブーメラン効果』です。自分の考えと同じ内容の説得であっても、言われ方によっては反発したくなるのです。
ちなみに、ネットで言われる『ブーメラン』とは別物になります。この『ブーメラン』は他人を強く批判して注目されていた人に、同じようなスキャンダルが起きることを言います。『ブーメランが自分に返ってくる』ことを表したスラング(俗語)なのでしょう。
この記事では『ブーメラン効果』についての解説と、ビジネスでの応用例をお伝えします。
ブーメラン効果とは
ブーメランは本来、狩猟の道具です。
ブーメランを投げた後、返ってくるのは便利なのですが、自分の所に返ってきた場合、獲物は捕れていません。さらにブーメランを取りそこねるとケガをしたり、ブーメランをなくしたりしてしまいます。つまり、「返ってきたブーメラン」は「獲物を捕る」という本来の目的から離れてしまっているのです。
このことから、説得が逆効果に働くことを『ブーメラン効果』と言うようになりました。
『ブーメラン効果』がはたらくのは、『自分の発言や行動、態度の自由を守りたい感情』(心理的リアクタンスと呼びます)が人間にあるからです。
『〇〇禁止!』『〇〇に限る!』と言われると、なぜか止められていることをしたくなってしまいますよね。これは自分で行動を決定したいと思う感情があるからです。そのため、他人から禁止や強制をされると不快に感じて反発したくなります。
最初にあげた宿題の例のように、自分がやりたいことを禁止されるだけでなく、やりたいことを強制される場合にも反発するところに、この心理現象の奥深さがあります。
次の項目では、どのような時に『ブーメラン効果』がはたらきやすいのか見てみましょう。
ブーメラン効果を生む要因5つ
前の項目で紹介した心理的リアクタンスに加えて、『ブーメラン効果』がはたらきやすくなる要因をここで紹介します。
1.自分の立場や意見に対する強い責任感がある
人にはそれぞれ自分の立場や役割があり、それに伴う責任感があります。そのため、その責任感を揺るがされる意見にはなかなか同意できません。
たとえば、仕事で上司にあたる人は『上の立場の者が部下を指導する』という責任感を持っているでしょう。通常はそれでかまいません。しかし責任感が強すぎる場合、部下からの提案が自分と同様の意見であっても反発して、部下の意見を聞き入れづらくなります。
これは、「責任者の自分が率先して意見を出すべきだ」と強く思っているため、部下の意見を受け入れにくい心理状態になっているからです。
2.ゆずれない信念や大切な価値観に関わる説得を受けた
人の性格には『これだけはゆずれない信念』や『大切な価値観』があります。『自分の芯』と言っても良いかもしれません。この芯をズラされたり、ゆがめられたりする説得は自分の存在を攻撃されると感じるため、強い反発を受けます。
親や家族をとても大切にしている人に「家族を見捨てる」ような選択をせまっても、きっと聞き入れないでしょう。この人の価値観を曲げそうになる説得だからです。
3.自分の嫌いな人から説得を受けた
嫌いなものからはとにかく距離を取りたくなるのが人間です。人間以外の動物でもそうかもしれません。そのような状態で説得を受けても「近づきたくない」「同じ方向を向きたくない」ので反発することは避けられません。
4.押しつけがましい態度で賛同された
たとえ自分と同じ意見であったとしても、『命令』や『強制』のような上からの押しつけだと賛同されても良い気分になりません。上で紹介した『心理的リアクタンス』という感情です。
頼んでもいないのにそばにピッタリと貼りついて、商品説明を始める店員さんに抵抗を感じるのは、これが原因でしょう。もう少し一人で見て回りたかったのに、その自由を奪われているからです。
5.「説得をする」などと予告されたので身構えてしまった
あなたは毎日、通勤経路を変えますか?
引っ越したばかりならともかく、毎日通勤経路を変えようとは思いませんよね。人は基本的に同じことをしていたい動物です。その方が効率よく楽に行動できるからです。そんな考えを持っているのに「あなたを説得する」と言われたら、どうしても身構えてしまいます。
説得されることで自分の意見を変えられてしまったら、楽に行動できません。行動の自由を制限されると言っても良いかもしれません。そのため、「説得する」と言われたら相手に反発の感情を抱くのは当然なのではないでしょうか。
次の項目ではビジネス目線で『ブーメラン効果』をはたらかさない方法や、逆に応用する方法をお伝えします。
『ブーメラン効果』をビジネスに応用する方法
上でも少し取り上げましたが、買おうとしていた商品について、店員さんにしつこく説明されて買う気が無くなったことはありませんか?
これには、上にあげた『4.押しつけがましい賛同』や『5.説得の予告』が含まれている(ように感じる)ため、『ブーメラン効果』がはたらいている状態です。信頼されている以前からの常連客であれば問題ないと思いますが、新規のお客さんにとってはなかなか購入しづらいのではないでしょうか。
この例とは反対に、上手に『ブーメラン効果』を回避していた例がありました。
以前私が見かけた例は、ショッピングモールにおかれていた自動車です。この自動車はただ置かれているのではなく、見に来た人が実際にドアを開けたり、座席に座れたりできるようにしてありました。
もちろん販売店のスタッフはいるのですが、来店者が興味を持って車にさわっている時はまったく声をかけずに、自由に車をさわらせていました。来店者が質問をしたり、パンフレットを欲しがったりしたときにだけ、スタッフは会話をしていたようです。
このスタッフは、自由に車をさわらせて体験してもらうことで、車への興味を持ってもらうようにしていたのではないでしょうか。もしかしたら、車のどこに興味を持つ人が多いのか、ひそかに調査をしていたのかもしれません。
いずれにしても、来店者の興味を伸ばし車の印象を強める事ができる良いPR戦略だと感じました。
このように、相手の気持ちを理解して、相手が自由にできる場所を残しておくことで『ブーメラン効果』が発動しにくくなります。
また、同じことを言ったとしても、信頼関係があると『ブーメラン効果』が起こりにくいです。
初めて見る人には何のことだかわからないお笑い芸人のネタも、以前からの見ている人には『定番のネタ』だと思われて大爆笑を引き起こしていることがあります。これはお笑い芸人と観客の間に信頼関係があるからです。
ビジネスには信頼関係が重要と言われますが、このような心理効果がビジネスの成功に大きな影響を与えています。
『ブーメラン効果』を避ける方法
今までの内容を踏まえて『ブーメラン効果』を回避し、お客さんに商品・サービスを買ってもらうまでの流れをお伝えします。
- いきなり売ろうとすると反発されるので、まずは信頼を作る
- 信頼ができたら商品・サービスを見せる
- 価格を上回る圧倒的な価値を見せる
- 購入したとき、しなかったときのメリットとデメリットをきちんと提示
- 買えない理由を1つずつ丁寧につぶす
- 購入はお客さんの自由意志に任せる
このやり方をあなたのビジネスに応用することで、『ブーメラン効果』を避けることが可能になります。
わざと『ブーメラン効果』を使う方法
上では、できるだけ『ブーメラン効果』から避ける方法をお伝えしましたが、『ブーメラン効果』をわざと使ってビジネスに応用する方法もあります。
申し込みや購入の直前にある文章を、以下のように変えてみてください。
例1)
「本気の人だけ、申し込んでください」
↓
「遊び・冷やかしの人は、申し込まないでください」
例2)
「めちゃめちゃ効果があります。」
↓
「効果が強すぎるので、悪用する人は買わないでください。」
後の文章にした方が、興味がわいてきませんか?
これらの文章では買わない・申し込まないことを強制することで、買いたくなる・申し込みたくなる『ブーメラン効果』を狙っています。また、「ここまで読んでいるあなたは『〇〇な人』ではないでしょう?」というゆるやかな限定もかけています。
今まで買いにくくなる表現を使っていた場合、このような表現に変えてみてはどうでしょうか?
まとめ
この記事では、人を説得しようとしたときに説得の内容に反発する『ブーメラン効果』の心理現象について解説しました。
人にものごとを伝えるときは、『心理的リアクタンス』と『5つの要因』を避けるようにするだけで相手の態度が大きく変わります。
私が最初にこの心理現象を聞いたとき、『北風と太陽』の話を思い出しました。
このお話では、北風が強引に脱がせようとして脱がせられなかった旅人のコートも(脱衣の強制)、太陽が優しく照らすとあっさりと脱いでしまいます(脱衣の自由)。
同じ結果になるのであっても、「やらされた!」と思うより「自分で選んだ!」と思える方が、その後の行動にも影響してゆきますね。
ビジネス以外の人間関係にも応用できる心理現象なので、ぜひ使ってみてください。
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