「ランチェスター戦略」という言葉は初めて聞いた方もいると思いますが、この戦略は日本で作られ、今では世界中で使われている戦略の一つです。
マーケティング理論は海外(主に米国)から日本に伝わってくることが多いのですが、珍しくランチェスター戦略は日本で生まれた戦略です。
今では誰もが知っている日本の大企業も最初はこの戦略を使い、大成功するキッカケになりました。小さな会社(独立起業を考えている人)にとっては必ず使いこなして欲しい戦略です。
というかこの戦略をしない限り、、ライバルに勝てることができません。
そうならない為にも、この記事では、ランチェスター戦略を知らない人でもわかるよう、ランチェスター戦略とはなにか?という基本概念から事例まで詳しく解説します。
1.ランチェスター戦略とは?
今から100年以上前(1914年)の第一次世界大戦の中、イギリスの自動車・航空工学のエンジニアでもあったフレデリック・ランチェスターが編み出したものです。
「戦闘力はどのように決まるのだろう?」と疑問に思い研究を重ねた結果、「戦闘力の法則」を見出したのが原点。
もともとは軍事作戦のために作られた戦略ですが、マーケティングと似ている部分が多々あったために日本のマーケティングコンサルタントである田岡信夫氏が独自にマーケティングに応用したものが「ランチェスター戦略」です。
今ではビジネスの戦略として広く知られています。このランチェスター戦略(ランチェスターの法則)には、2つの理論があるので、詳しく説明していきます。
2. ランチェスター戦略の基本 「強者と弱者」
今や、ライバルがいない市場は滅多にありません。そもそもライバルがいない市場=需要がないともいえるので、ライバルに勝つ戦略は必須です。
とはいっても、大企業が出しているような商品・サービスと同じようなモノを販売しても勝てないのは一目瞭然です。
広告・マーケティング費用に大きな差があり、認知度も大きく違います。そして、大企業は利益を奪われないように常にライバルの動向に目を向けています。
何がいいたいのか?というと、、強者と弱者によって戦略は違ってくるということ。そもそも立ち位置が違うので、、当たり前なのですが、、、
多くの人は大企業がやっていること=正解だと信じでいます。大企業をモデリングすれば、自分の会社も上手くいく。と思ってしまうのです。
ですが、弱者は弱者なりの戦略があり、大企業でいう強者は強者の戦略があります。それぞれ戦略は大きく違います。ランチェスター戦略には「弱者の戦略」と「強者の戦略」の2つがあるということです。
注意
ここでいう弱者とは、市場シェア1位以外。つまり、、「2位以下の企業は全て弱者」と考えます。
例えば、国内自動車業界であれば、トヨタ、日産、マツダ、ホンダどれも大企業と言えますが、、このランチェスター戦略ではシェア率No. 1の「トヨタ」が強者になりそれ以外の企業が弱者になります。
2-1、「弱者の戦略」理論
ランチェスター戦略の一つ目の理論は、弱者の戦略。弱者の戦略を一言でいうと「他社との差別化」。
分かりやすくいうと、大企業がターゲットにしないような小さな(ニッチまたはスキマ)市場に特化したり、未開発な市場に力を入れてみる、ということです。もっと砕いて言うとしたら、今までにない「独自の市場を作る」。
ソフトバンクの場合は、「低価格」の市場、サントリーの場合は「プレミアムビール」の市場と言うような感じで、まったく新しいというよりは、大企業が上手くいっている市場のなかでもう一つ枠組みを作るといった感じです。
※ここに関しては事例のところで詳しく記述します。
「弱者の戦略」を一言でいうと「差別化する」ということ。
2-2、「強者の戦略」理論
強者とは、市場シェアが1位の企業のこと。強者が取るべき戦略は、「追従すること」。弱者が1位にのし上がろうとして様々な差別化して出した商品・サービスに似たようなモノを後を追うように出すのです。
弱者が出した値段よりも安く提供できれば差別化を防ぐことができます。あまりいい気はしませんね。弱者が強者に勝つために必死になり考えた商品・サービスなどの策を発表して間もなく、すべて盗まれるのですから。
強者は市場シェア2位以下の人に抜かれないようするのが会社が生き残る術なのです。
「強者の戦略」を一言でいうと、「追随」。弱者が差別化して出してきた商品・サービスと同じようなものを商品・サービス化すること。
3、ランチェスター戦略(経営)の成功事例
このランチェスター戦略は、多くの企業が取り入れています。ここからは、ランチェスター戦略で成功した実例をいくつか紹介していきます。
事例はたくさんありますが、これを読んでいる方が知っている企業でお伝えすると頭に入ってくると思います。
ですので、孫正義さんのソフトバンク、飲料水やビールでおなじみのSUNTORY(サントリー)、自動車業界シェアNo.1世界のTOYOTA(トヨタ)、iPhoneを販売しているApple(アップル)社の事例をお伝えします。
これらの企業はランチェスター戦略をつかい、誰もが知る有名企業になれたのです。
3−1、弱者の戦略 事例(ソフトバンク編)
まずは、弱者の戦略の事例からソフトバンクの孫さんは、2006年にボーダフォンという携帯会社を約2兆円で買収しました。
ですが、、その当時、携帯市場には圧倒的な強者となるNTTドコモの存在がありました。
孫さんは、無謀な仕掛けはせずに弱者の戦略を活用します。まだ未開発な(ニッチ、スキマ)市場に力を入れて、他社との差別化をはかります。その当時、携帯業界にはなかった「低価格」に特化し「メール・通話料0円」を打ちだしたのです。
その後も学生向けの商品・サービスなどをどんどん打ちだしていきます。そして極めつけは、他社との差別化をはかるためにソフトバンクが国内で初めてアイフォンを導入しました。
これが大ヒット!!結果、、、今ではドコモ、auもiPhone市場に参入しています。
このように、、他社がやらないこと(差別化)をおこなったことで、ソフトバンクは2014年にドコモを抜いて携帯市場1位になったのです。
3−2、弱者の戦略 事例(サントリー編)
サントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」と聞き、どのようにイメージを持ちますか?多くの人は1番高いビールという風に思うのではないでしょうか?
世の中が第3のビール(発泡酒)ブームのころサントリーはちょっと高くて品質の良いビールである、プレミアムモルツを販売したのです。つまり、プレミアムビール市場という誰も手を出していないニッチ市場に特化しました。
このランチェスター戦略が功を奏して、6年間で売上を20倍以上も伸ばし、サントリーのビール市場はそれまで45年間も赤字でしたがそれをひっくり返し黒字にしたのです。
(45年間も赤字なのに、、、ビール市場を続けられるってのも凄いのですが、、)
今では贈答用市場でアサヒビールを追い越し、貰って嬉しいビール1位となっています。余談ですが、僕はエビス派です、、秋限定の琥珀エビス、、超絶上手いです(笑
3−3、強者の戦略 事例 (TOYOTA トヨタ)
自動車業界では国内だけでなく、世界一にもなっているTOYOTA(トヨタ)。もちろん、トヨタは強者の戦略をしています。
2009年ライバル会社であるHONDA(ホンダ)はハイブリッド車であるインサイトを発売しました。記憶に新しい人もいると思います。
もちろん、、インサイトは低燃費ということもあり爆発的に売れました。
それに危機意識を持ったトヨタは追従してインサイトと同じようにハイブリッド車(プリウス)を数ヶ月後に出したのです。しかも、、インサイトよりも安い価格で。。。。
結果どうなったか?はみなさんもお分かりですよね。今では街でプリウスを見ない日はないというほど、人気車となっています。
プリウスは2009年の新車販売数で1位になりました。同じハイブリッド車であれば安い方を選ぶのがお客さんです。しかも発売元が世界のトヨタであれば尚更。。。
ちなみに、、インサイトは2014年に生産終了しています。。ビジネスの世界は厳しいんです。。
3−4、強者の戦略 事例 Apple(アップル社)
強者の戦略、もう一つの事例は、僕も愛用している製品が多いApple(アップル)。アップル社の製品は、パソコン、スマートフォン、タブレットやウォークマンなど電子機器が中心です。
アップルの強者の戦略とは、他社に先に商品を出させておいて、その後に商品を発表し他社との違う点、素晴らしさを強調するという戦略です。
SONY(ソニー)がはじめてフラッシュメモリーを使った小型のウォークマンを発売しましたが、アップルはその2年後にデザインも素敵なiPodを販売し爆発的なヒットになりました。
日本で初めてiPhoneが販売されたのも、日本国内でスマートフォンが普及しだした少し後くらいです。このようにアップルも「強者の戦略」をとっているのです。
4、ランチェスター戦略は取り入れるべきか?
答えです、取り入れなければビジネスで生き残ることはできないといっても過言ではありません。
そもそも日本に存在している会社の99%以上は従業員30人までの小さな会社ばかりです。つまり、ほとんどの会社は弱者だということです。
ですので、まずは「弱者の戦略」を駆使し小さなお山の大将を目指していきます。少しでも何かの分野で光ることが大切なのです。
それさえできなければ、、そもそも大きく飛躍することできません。
常日頃から自分の業界に目を向け、強者がやれていないことを探してみてください。そして強者が自分のできていないことをやって上手くいっているのであれば同じように真似をすることも大切です。
基本的にはどの業界でも、これの繰り返しがビジネスなのです。自分の業界を注視し続ければ、改善策や新たなアイデアも勝手に浮かんできます。
5、ランチェスター戦略は今の時代通用するのか?
「いや、、差別化しただけ上手くいけば万々歳だよ。。そんなの無理だから!」ランチェスター戦略にはこういう批判もあります。
いやいや、、、そもそも差別化という、、たった一つの戦略で上手くいくと思っているのが甘い考えです。どんな差別化をするか?どこまで細かく絞りきれるか?ということがポイントになってきます。
それは、業態なのか?商品なのか?というだけでも大きく違ってきます。ラーメン屋の差別化では味(豚骨・塩・味噌)や地域(博多・札幌)が真っ先に思いつくのですが、、それだけではありません。
博多の超有名ラーメン店である『一蘭』。ここは他のラーメン店と何が違うのか?考えてみてください。
有名なのは『味集中カウンター』です。1人ひとり仕切られた客席。店員とも顔を合わさず、他のお客様の目を気にすることなく、ただただラーメンの味に集中できる環境が『味集中カウンター』です。
これにより、、
- 女性が1人でも気軽に来やすくなった
- 深夜などで酔っぱらいの大体客がきても長居しない(回転率UP)
- 無愛想な店員や厨房の汚さなどのマイナス面を隠すことができる
そして何より、、、、
ラーメンを待っている間、1人で暇なので、目の前の暖簾に書いてある、「創業ストーリー」を半強制的に読まされます。
あそこのラーメンの味が好きというよりも、そのラーメン店がどういった経緯でオープンしたのか?というストーリーがあると、それだけで応援したくなりますし、親近感が湧きます。
そして、それが口コミになり、、勝手にお客さんが広めてくれることになります。じつは、、これが一蘭の人気の理由です。今では日本にとどまらず世界(香港・アメリカNY)に店舗を構えるようになりました。
これが本当の差別化なのです。
その他にも、「餃子をメニューに加えない」。「赤い秘伝のタレ」で好みの味に調整できる。注文は「オーダー用紙」で、声を出さずに替え玉を注文できる「替え玉注文システム」など、、細かな部分が差別化になっています。
※ちなみに『味集中カウンター』は特許を取得しているそうです。
6.まとめ
ランチェスター戦略を初めて聞いた方は頭がパンパンになっている方もいるかもしれません。ですが、、難しく考えずシンプルに考えてください。
まずは、自分が強者なのか?弱者なのか?を把握すること。
そして、、強者は、弱者が何を起こすのか?を常にチェックしながら、弱者が自分の手薄なところを攻めてきたら、同じような商品・サービスを追従する。弱者は、強者の手薄な部分を探し、一気に攻める。ビジネスとは、この繰り返しです。
強者が少しでも追従するのが遅れたり、弱者が間違ったところを攻めたりすると逆効果になってしまいます。
そうならないためにも、日々変化し続けるあなたの業界を常に注目しておかないといけません。ぜひ、、ランチェスター戦略を1つの戦略(マーケティング)として活用していただけたら嬉しいです。
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